目次
要約(事件の内容・争点・判決結果)
◆事件の内容
車の購入者がローンを滞納したため、連帯保証人(被上告人)が販売会社に立替払いを実施。
その後、購入者が破産手続開始決定を受けたため、保証人は代位によって得た所有権留保を別除権として行使し、車両の引渡しを破産管財人に請求した。
◆争点
- 保証人が所有者登録をしていなくても、留保所有権を別除権として行使できるか?
◆最高裁の判断
✅ 保証人名義の登録がなくても別除権の行使は可能
✅ 登録上の所有者が販売会社のままであれば、留保所有権の存在が推認される
✅ 破産財団や他の債権者に不測の不利益は生じない
→ 保証人の引渡請求を認容(上告棄却)
2. 判例の詳細解説
◆背景と契約関係
- 購入者・販売会社・保証人の三者契約において
- 保証人が代位取得した留保所有権に基づき車両を引き渡せること
- 所有権は販売会社名義のまま
- 購入者が期限の利益を喪失すれば、保証人が引き取って評価充当できることが合意されていた
◆原審と上告の経緯
- 保証人は、購入者のローン滞納を理由に代位弁済
- 購入者が破産手続開始
- 保証人は破産管財人に対して別除権に基づく車両の引渡しを請求
- 管財人側(上告人)は「保証人名義での登録がないから所有権を対抗できない」と主張し上告
◆最高裁の判断ポイント
🔹 法定代位による留保所有権の取得は有効(民法500条)
→ 保証人が販売会社に代位し、担保権(所有権)も取得できる
🔹 名義が販売会社のまま=所有権留保の存在が推測可能
→ 登録変更がなくても第三者(債権者等)に不測の損害は生じない
🔹 登録名義が信販会社になる必要はない
→ 信販型ローンや保証付き割賦販売など現場実務に配慮した柔軟な判断
3. 他の判例との違い(平成22年判例との比較)
🔸平成22年最高裁判決では、信販会社が販売会社から「移転」した所有権を自らの債権(立替金+手数料)担保として留保したが、名義変更をしていなかったため別除権行使を否定された。
本件では、
- 保証人が**「代位により」販売会社の担保権を取得**した構図であるため、
- 別除権の行使が認められた
▶️ 取得方法(移転か代位か)と担保範囲の違いが結論を分けた
4. この判例が示す実務ポイント
✅ 所有権留保の登録名義が販売会社のままでも、保証人は代位による別除権行使が可能
✅ 保証人が名義変更を怠っていても、法的に保護され得る(民法の代位規定による)
✅ 実務では「名義変更の不要な担保取得」として安心材料になるが、信販会社などが自ら担保権を移転する場合は注意が必要(前例あり)
平成29(受)408 自動車引渡請求事件
平成29年12月7日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 札幌高等裁判所