- 日本人の有責配偶者(不貞・遺棄)による婚姻破綻では、外国人配偶者も「日本人の配偶者等」の在留資格を維持しうる
- 入管による「在留資格変更不許可処分」が、裁量の逸脱・濫用として違法と判断された
- 外国人配偶者が婚姻継続を望む限り、法的保護に値すると裁判所が判断
1. 事件の概要
タイ国籍の女性(控訴人)は、日本人男性(A)と婚姻し、「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していました。
しかし夫が不貞を行い別居。控訴人は別居後も婚姻関係の修復を望み、複数回にわたり在留期間の更新・変更を申請しましたが、入管(被控訴人)は「婚姻関係が破綻している」として不許可処分を下しました。
この処分の違法性を争い、控訴人が訴訟を起こした事案です。
2. 控訴人(外国人妻)の主張
- 婚姻関係は夫Aの不貞・遺棄により破綻したが、自らは離婚意思はない
- Aに戻ってくることを願い、ホステスとして働きながら生活を続けていた
- 入管の不許可処分は、有責配偶者であるAの責任を全く考慮しておらず、不当な評価
- 離婚すれば精神的・経済的に追い詰められる恐れがある
3. 被控訴人(入管)の主張
- 控訴人は既に夫Aと別居して長期間が経過し、事実上婚姻は破綻
- Aに在留資格更新のための協力を依頼する際、「離婚してもよい」といった発言や書面があり、婚姻継続の意思はないと判断
- よって、「日本人の配偶者等」の在留資格を与える合理的理由は存在しないと主張
4. 裁判所の判断(大阪高裁)
裁判所は、入管の判断を事実誤認と評価の誤りにより違法と認定し、以下のように判断しました。
◆ 婚姻継続の意思は認められる
- 控訴人は、離婚する意思はなく、むしろAの帰還を望んでいた
- 離婚をほのめかす発言や離婚届の提出は、入管手続きでの更新協力を得るためのやむを得ない手段であり、真意ではない
◆ 有責配偶者の責任は重視すべき
- Aは他の女性と駆け落ちし、子まで設けて生活しており、有責配偶者であることは明白
- 離婚請求しても認められない状況であり、控訴人の「配偶者としての地位」は法的に保護されるべき
◆ 在留資格変更には「やむを得ない特別の事情」がある
- 入管は「短期滞在からの変更には特段の理由が必要」と主張したが、本件ではその経緯(元々「配偶者等」の在留資格を持っていた)から、変更の必要性・相当性・やむを得ない事情すべてが存在すると判断
5. 判決と結論
- 原判決を取り消し
- 入管の不許可処分を取り消す
- 訴訟費用は一審・控訴審とも入管(被控訴人)負担