- 年金分割の請求は「離婚後2年以内」でも、配偶者死亡後は「1か月以内」が期限
- 「元配偶者が死亡していたことを知らなかった」では救済されない
- 裁判所は、「標準報酬改定の法技術上、死者に対する請求はできない」と判断
1. 事件の概要
昭和29年生まれの女性(原告)は、昭和54年に男性Aと結婚し、後に長期別居を経て平成20年に調停ではなく裁判上の和解で離婚しました。
この和解には、年金分割の割合(0.45)を定める内容も含まれていました。
その後、原告は平成22年3月、年金分割のための**「標準報酬改定請求」**を提出しましたが、日本年金機構は「請求はすでに死亡した元夫の死後1か月を過ぎていた」として却下。
原告はこの処分の取消と、割合0.45での分割を義務付けるよう裁判を起こしました。
2. 原告の主張
- 年金分割請求の法定期限(離婚後2年)内に請求したため、処分は違法
- 元夫の死亡を把握できなかったのはやむを得ない事情であり、1か月という制限は不合理
- 離婚時年金分割制度の目的(生活保障・クリーンブレーク)に反する
3. 被告(年金機構側)の主張
- 死亡した人物に対する標準報酬改定請求はそもそもできない
- 政令(厚年法施行令3条の12の7)は、「死亡後1か月以内」であれば請求を有効とみなす救済規定
- 本件では元配偶者死亡後1か月以上経っており、制度上の救済枠外
4. 裁判所の判断
東京地裁は、年金機構(被告)の主張を支持し、原告の請求を棄却しました。
◆ 標準報酬の改定は「生存」が前提
- 離婚時年金分割制度では「標準報酬の改定」という技術を用いて分割処理を行うが、亡くなった人の報酬は観念できない
- 制度上、「配偶者死亡後1か月以内」に限り、生前に請求があったものとみなせるが、今回は1か月を超えていた
◆ 制度の趣旨に合致した政令である
- 1か月という期間は、死亡の事実を早期に確認して動ける人への限定的な救済であり、政令の委任範囲内
- 原告のように死亡の事実を知らなかった事情があっても、法律上の例外にはならない
5. 結論と判決の結果
- 原告の請求はすべて棄却
- 裁判所は、政令(厚年法施行令)の規定は適法であり、処分も妥当と判断
- 訴訟費用は原告負担