目次
ポイント3点
- 消防本部の懲戒免職処分は違法とされ、取り消された
- 懲戒免職の理由となった「ハラスメント行為」には事実誤認が認められた
- 原告に対して100万円の慰謝料支払いが命じられた
1. 事件の概要
本件は、福岡県糸島市消防本部の職員であった原告A1とB1が、ハラスメント行為を理由にそれぞれ懲戒免職処分(A1)と戒告処分(B1)を受けたことに対し、その違法性を争った裁判です。
原告A1は懲戒免職処分の取消しと慰謝料300万円を求め、原告B1は戒告処分の取消しを求めて訴えを提起しました。
消防本部内部では、新聞報道でも大きく取り上げられた「パワハラ問題」が発生しており、13名もの職員に対する懲戒・分限処分が行われた中での訴訟となりました。
2. 原告の主張
- A1は、勤務中の喫煙など軽微な離席は認めたものの、重大な職務懈怠ではないと主張。
- 指摘された訓練行為(しごき・いじめ)についても、いずれも通常の訓練や業務指導の範囲内であったとし、懲戒免職に至るほどの非違行為ではないと争いました。
- さらに、弁明の機会が十分に与えられなかったこと、また事実調査が一方的・杜撰であった点も違法と主張しました。
一方B1も、自らの指導行為がいじめやハラスメントに該当するものではなく、処分は過剰であり違法であると訴えました。
3. 被告(消防本部側)の反論
- ハラスメント行為は複数年にわたり、対象となった部下の心身に重大な影響を与えており、懲戒免職は適切であると主張。
- 訓練や指導と称して、宙吊り状態にさせる、暴言を繰り返すなど、指導の範囲を逸脱した悪質な行為があったと認定しました。
- また、処分の手続きに問題はなく、十分に弁明の機会も与えたと反論しました。
4. 裁判所の判断
裁判所は次のように判断しました。
- A1に対する懲戒免職処分について、ハラスメント行為の一部には認定できないものが含まれており、処分理由に重大な事実誤認があったと認定。
- 処分に至る過程において、弁明の機会が形式的にしか与えられず、適正手続違反があったとしました。
- また、懲戒免職という最も重い処分を選択したことについて、裁量権の逸脱・濫用が認められると判断しました。
以上から、原告A1の懲戒免職処分は取り消され、慰謝料100万円の支払いが命じられました。
一方、原告B1については、戒告処分の違法性は認められず、請求は棄却されました。
5. 最終的な賠償額
- A1に対する慰謝料:100万円
- これに加えて、懲戒免職日(平成29年3月3日)から支払済みまで年5%の遅延損害金が付されることになりました。