目次
【ポイントまとめ】
- 大学側が授業担当を認めず、教授が損害賠償を請求
- 教員には授業担当の「権利」もあり、契約違反が認定
- 最終賠償額は慰謝料等合計106万円に
1. 事件の概要
本件は、D大学の教授であった原告が、大学(被告)との労働契約に基づき「週4コマ以上」の授業担当が約束されていたにもかかわらず、授業を一切担当させてもらえなかったとして、慰謝料と弁護士費用を請求した事件です。さらに、ハラスメント防止部会への相談も適切に対応されなかったとして、追加の損害賠償も求めました。
原告は最終的に定年退職しましたが、授業を担当できないままキャリアを終えたことによる精神的苦痛などを主張しました。
2. 原告の主張
原告は次のように主張しました。
- 労働契約では「週4コマ以上の授業担当」が明記されており、大学には授業を担当させる義務があった。
- 授業は単なる労務提供ではなく、大学教員にとって「研究の発表・学問の深化」という権利でもある。
- 大学が授業を担当させなかったのは、過去のトラブル(訴訟等)への報復であり、契約違反・パワハラに該当する。
- 適切な対応を求めたハラスメント防止部会も、審議不能と放置し、安全配慮義務に違反した。
原告はこれらにより、慰謝料200万円+弁護士費用20万円、さらにハラスメント対応に関しても慰謝料100万円+弁護士費用10万円を求めました。
3. 被告(大学側)の反論
大学側は次のように反論しました。
- 授業担当の権利は存在せず、授業をさせるかどうかは大学側の裁量である。
- 原告は過去に和解した条件(ホームページへの記載禁止)に違反しており、授業を担当させない理由があった。
- 原告にはハラスメント行為の疑惑があり、学生保護の観点から授業を担当させなかったのは正当だった。
- ハラスメント防止部会の対応も、問題の性質上「審議不能」と判断しただけであり、債務不履行にはあたらない。
4. 裁判所の判断
裁判所は、次のように判断しました。
- 労働契約上、原告には「週4コマ以上の授業を担当する権利」が認められると解釈でき、大学側には授業担当義務があった。
- 大学側の主張するホームページ記載違反は授業担当義務の履行拒否を正当化するものではない。
- 原告によるハラスメント疑惑についても、和解時点で既に認識していた事実であり、これを理由に授業を担当させなかったことは認められない。
- ただし、ハラスメント防止部会の「審議不能」という判断自体は一定の合理性があり、債務不履行とは言えない。
- ただし、審議結果の通知が8か月以上遅れた点は安全配慮義務違反にあたり、これについても一部損害賠償を認める。
5. 最終的な賠償額
最終的に認められた賠償額は次の通りです。
内容 | 金額 |
---|---|
授業担当拒否に対する慰謝料 | 100万円 |
ハラスメント部会通知遅延に対する慰謝料 | 5万円 |
弁護士費用相当損害 | 1万円 |
合計 | 106万円 |