目次
要約|この判例の結論はコレ!
事故の内容
深夜、横断歩道を歩いていた15歳の少年が車にはねられて死亡。加害者は事故直後に現場から離れ、コンビニでブレスケアを購入していた。
論点
① 救護義務違反(道路交通法72条1項)の「直ちに救護」の意味
② 被告人の行動は救護義務違反に該当するのか?
裁判結果
東京高裁は原判決(懲役6月の実刑)を破棄し、被告人に無罪判決。
事故後の行動を「一貫した救護の意思」と評価し、救護義務違反は成立しないと判断。
2. 判例の詳細|裁判所が見た「被告人の行動」
✅ 事故の発生(平成27年3月)
- 被告人の運転する車が横断歩道上の少年(15歳)に衝突
- 被害者は約44.6mはね飛ばされ、多発外傷により死亡
✅ 被告人の事故後の行動
- 衝突地点から約95m先で車を停止し、現場に戻って被害者を捜索
- 被害者が見つからず、「飲酒運転がバレる」と思い、ブレスケアを購入
- 約1分後に戻り、被害者発見後すぐ人工呼吸を行う
- 友人が通報、救急搬送されるも死亡
3. 裁判所の判断ポイント|なぜ無罪になったのか?
🔶 高裁の見解:「救護の意思を失っていない」
- 被告人は、事故直後から被害者を捜そうとしていた
- コンビニに行ったのは「飲酒隠し」で非難されるべきだが、救護意思を放棄したとは言えない
- 被害者を発見後は、実際に人工呼吸をしており、救護措置を講じていた
- よって「救護義務違反(=直ちに救護しなかった)」とは言えない
🔶 検察の主張を退けた理由
- 「直ちに」とは、機械的に一切の寄り道を許さないという意味ではない
- 被害者が見つかっていない状況で119番通報をしても実効性が乏しい
- 被告人の行動は、事故後も一貫して救護の意思を持っていたと評価
4. 報告義務違反について|なぜ免訴にならなかった?
報告義務違反(道路交通法)の時効は3年。
起訴されたのは事故から7年後だったため、公訴時効が完成しており、「免訴」とすべきところですが、
この事件では救護義務違反と一体の起訴だったため、主文上は無罪のみが言い渡されました。
5. この判例が示す重要な視点
- ✅ 「救護義務違反」は行動の全体像で判断される
- ✅ 飲酒隠しのような行為があっても、一貫した救護意思があれば無罪になりうる
- ✅ 法律の「直ちに」は、時間・場所・状況の全体を考慮して柔軟に判断される
令和5(う)75 道路交通法違反 令和5年9月28日 東京高等裁判所 破棄自判