事故の概要
夜間に車を運転中の被告人が、高齢の歩行者をはねて死亡させた。
主な争点
・正確な衝突地点はどこだったのか
・被告人に結果回避可能性はあったのか
・歩行者の行動は自殺の可能性があったのか
判決結果
検証結果や視認距離・停止距離には不確定要素が多く、回避可能だったとは断定できない。結果回避可能性に合理的疑いが残るとして、無罪。
目次
判決の詳細と解説(札幌高裁 令和7年3月19日)
事故の背景
2019年3月、北海道苫小牧市。被告人は時速約45キロで直進中、横断中の75歳の歩行者と衝突し、頸髄損傷により死亡させた。
現場は住宅街で、夜間は暗く見通しが悪い。被告人の車は前照灯を下向きにしていた。
裁判の争点と判断
衝突地点の認定
複数の鑑定と現場見分の結果、裁判所は「被告人が当初供述した地点(A地点)」を衝突地点と認定。
視認可能距離と停止距離の問題
- 視認可能距離:最大で23メートルと実験で確認
- 停止距離:最大で約33.89メートル(速度と反応時間で変動)
この差が2.23メートルしかないため、「必ず回避できた」とは言えないと判断された。
自殺の可能性について
被害者は直後に旅行や手術の予定をしていたほか、日常生活も普段通りであり、自殺を企図していたとは考えにくいとされた。
裁判所の結論
- 鑑定の前提に疑問があり、速度や視認距離には不確定要素が残る
- 結果回避可能性があるとは合理的に言えない
- 被告人には刑事上の過失を問うことができないとして無罪
判例の出典: 令和6(う)68 過失運転致死
令和7年3月18日 札幌高等裁判所 破棄自判 札幌地方裁判所